青年は、日焼けして、その真っ黒な顔に瞳だけがギラギラ輝いていた。
何ヶ月かオーストラリアを放浪してきたというその風貌は、薄汚れたGジャンに破れたワークパンツとスニーカー。
カッコなんかどうでもいい。お酒が大好き、気のおけない友達と騒ぐのが大好きな21歳、若き日の木下隆介がそこにいた。
「美容師なんて好きじゃない」そう公言してはばからない彼に見えているものは、外国への憧れ。形やしきたりに囚われず自由に生きたい。そんな押さえきれない思いが身体から満ち溢れていたな。初めのころ、技術は人一倍早く覚えるが、突き詰める探究心には少し乏しかったように記憶している。
しかし、見て覚え、なんでもまずやってみる素直な心を持っていた。それが、彼のすごいところ。たくさんのファンができた。
思いが彼を突き動かし、3年前、30歳を前にして1度カナダに飛び出した。
彼を待ち受けていたものは、カナダの美容院と日本の美容院とのギャップ。給料は鏡を借りての売上からの歩合。それまでの彼の美容院の概念が根本から崩れ去ったに違いない。
文化、そして言葉の壁。日本人同士でも難しいコミュニケーション。雑多な人種の人々がひしめき合うバンクーバーで、彼の脳裏には様々な思いが駆け巡ったことは想像に難くない。
帰国して、君はかわった。
「結婚なんかしない」といっていたのに幼馴染のステキな奥さんをもらって家庭をつくった。お昼に、愛妻弁当を広げるときの嬉しそうな君の横顔。
以前のように、深酒をせず、日本酒を焼酎にかえた。
そして、この4月、わがサロン アントゥン シュール ヴォーグを巣立ち、逆瀬川に自分の城を持つ。
「hi-na-ta」(ひなた)という名前。いいネーミングだ。ステキなサロンになったらしい。鷹取先生、お世話になりました。
きっと、繁盛店になることだろう。
発つ鳥、跡を濁さず、大きく羽ばたいてくれ。
とはいっても、阪神タイガースでいうなら金本兄貴がいなくなったようなもの。
みんなで一丸となり、山本店の穴を埋めなくてはならない。
たくさんのひな鳥が、口をパクパクさせて待っているのです!
5月にはわが「ANTENNE SUR VOGUE」も20年目に入ります。
いっそうの技術とサービスの向上に勤めてまいりますので、木下ともどもこれからも、よろしくお願いいたします。
■hi-na-ta TEL&FAX 0797-73-1177
宝塚市中洲1-2-15 OWNER 木下隆介
P.S アシスタントのころ、私の物まねをよくしてくれました。(笑い)
奥さんと仲良く、幸せに。アッサム、アゲちゃんをよろしく頼む。
11年間、ともにやれてよかった。
本当にありがとう!