内田先生が名付け親の『マトグロッソ』 http://www.matogrosso.jp/
というウエッブで読めます小説のサイトにに作品を出しました。
テーマは「ウソのようなホントの話」
少し長いですが、そのひとつを以下に。
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黒い瞳
新聞が配達される頃、たいがい目覚める。我が家の犬が決まって吠えるからだ。昼間でも家の外に人の気配がすると、玄関に走り出し吠える。家を守ってでもいるつもりなのか。
内弁慶で、大きな犬の前ではこそこそ逃げる。やっぱり飼い主に似るのだろうか。
その日、何か予感がして近道を通った。父が入院している病院に向かっていた。
病室に入ると父は人工呼吸器に繋がれる瞬間であった。自然死でとお願いしていたのに。言葉を発しようとしたが、得意げな医師の表情に、口をつぐんだ。
九州男児で、職人気質。よく叱られたが、今は言葉を発することもなく、父は微動だにもせずに機械と息を合わせ続けた。
が、二十五日後、その瞬間はやってきた。
重い足を引きずるかの音とともに機械は動きを止めた。ドラマでは何度も見ていたが、パルス音とともに波形が小さくなる様を他人事のようにただ眺めていた。
父の法要が済み、ひと段落したころ、通りがかりのペットショップで、一匹の犬とたまたま目が合う。茶色のトイプードルが我が家にやってきた。とにかくやんちゃで、いうことをきかない腕白坊主。
その後、ブリーダーから送られてきた血統書を見て、思わず声が出た。
１月２８日 生まれ
父が人工呼吸器に繋がれた、まさにその日であった。
これを書いている最中、視線を感じて振り向くと、まん丸の黒い瞳で、じっとこちらを見ている彼がいた。
□■□ＡＮＴＥＮＮＥ ＳＵＲ ＶＯＧＵＥ
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