味覚の激辛化

最近、カレーのことをたくさん書いて、たくさん食べているんですが、その理由のひとつをお伝えしたいと思います。

「激辛ブーム」なんていわれていた時期を経て、「辛さ」に対する食の分野での欲求はますます過激になってきています。
このブーム、世界的で、富裕国に顕著に見られる。その秘密は唐辛子の成分と効果にあるのです。

味がなく、色や匂いもなく、痛みをもたらすカプサイシン(唐辛子の辛味成分)は実に奇妙な物質なのです。少量の粉末でも、摂取すれば人間の身体は自己防衛反応を示します。汗が吹き出て、心拍数は上がり、舌がしびれて、涙があふれる。

ですが、その次に別の効果が表れるんです。それは「鎮痛効果」です。
カプサイシンを口にすると、身体が生成する物質の中で最もモルヒネに近いとされる物質、エンドルフィンが血液中に流れるんですね。

その結果、人はハイ状態になる。そして、カプサイシンを摂れば摂るほど、その効果は増すのです。それにプラス、常習性や恒久的な害がまったくないのです。

そういったわけで、世界的に、特にセレブの間で注目が集まっているわけです。かつては、チリペッパーといえば、インドやタイ、メキシコなどの珍味を好む人々の専門領域でしたが、いまやインスタント食品やカクテル、チョコレートにいたるまであらゆる料理に使われるようになってきました。

カプサイシンは脳の三叉神経を活性化し、他の味への反応を高めることもわかってきています。おまけに調査ではインドは統計的に、世界で一番アルツハイマー率が低い国でなんです。そして常習性がない。素晴らしい食べ物です。

哺乳類の中で、チリを食べるのは人間だけだそう。他の種は、不味いということは毒を帯びている証拠と考えるようです。当初は不味いと感じるが、後に快楽を与えるアルコールやコーヒーなど若者が好むようになるのと同様、「社会的習慣」になりつつあるようです。

そしてもうひとつ。「スリル」ではないでしょうか。害がないなら、体内を流れるエンドルフィンは効果絶大。ヒリヒリと焼ける感覚は、クセになりますよね。

私が、カレーの研究にはまってる訳がお分かりいただけたでしょうか。クミンなどのターメリックだけでも奥が深いんです。また、これについては別の機会に。

まあ、辛さに対してもだんだん麻痺してくるけどね。青唐辛子のタイカレーは、ほんとに刺激的。一度はご賞味を!

■参考文献 クーリエJAPON 2009 4月号