映画評論家 町山 智浩氏、ご推薦の映画を鑑賞しました。
ロードショーのキャッチコピーは、「あなたは、ワタシを、笑えない」
見えてくるのは、主人公の精神的な未熟さゆえのわががままさ。自分勝手な物言いに、観ていてだんだん腹立たしくなってきますが、悲しいことに、誰にでもこういうイタイ時期は経験があるものではないでしょうか。
キティちゃんのTシャツにグラサン、寝起きに、はずすヌーブラ、むだ毛処理、37歳を30歳に蘇らせるメイクアップ。仕上げに、別人に生まれ変わらせる絶妙な金髪のウイッグ。横目でにらんで見下すような目。思いこみのすごさには、言葉を失います。大人になりきれない女性にありがちな、未熟さ、イタサ。彼女は、相手より常に上に立っていないと気が済まない。上から見下すことで、常に自分が主導権を握る余裕を保ちたい女性。そして、憧れの存在として常に羨望の眼差しで、相手から見上げられたい欲望を制御できないのです。それなりの成功をおさめ、女性としても魅力的なはずなのに、心のどこかに空虚感をかかえ、ハイスクールの頃から成長できないでいる。
幸せの形や、充実した人生にきまった物差しはないけれど、それゆえ他者との比較や自分に欠落したものを、追い求めることでしか「幸せ」を実感できない生き物なのだろうか、人間というやつは。イタイふたりが時間と性別を超えて、一方は「はけ口」、一方は「羨望」のクロスする感情のもとで寄り添う様は不可思議。
なんといっても、シャーリーズ・セロンにつきます。キャスティングがすばらしい。「プロメテウス」なんかとは違ったアカデミー賞女優の実力を見せつけられた気がします。「最低」だから最高であり、生き様は不細工だが、どこか憎めない、かわいらしさと滑稽さがある。まさに、GAPを具現化して、ジャストにはまり役。
サントラも一聴の価値あり。監督のジェイソン・ライトマンはバンドマンでもあるそうで、90年代グランジを中心に選曲のセンスがいいんです。オープニングクレジットに流れる曲や、いささかショッキングなオズワルドとのラブシーンも見もの。彼女の愛車、赤いMINIの車内に流れる音楽が、CDでなくテープなところも、ストーリーを象徴しています。
忘れられない過去の思い出や、トラウマを引きずっている方には、とくにおススメです。
彼女を、笑えないのは私だけだろうか。
まったくもって、ハッピーエンドでもなんでもない、余韻を残した突き放した終わり方が・・。
◆ヤング アダルト
「JUNO/ジュノ」のジェイソン・ライトマン監督&ディアブロ・コディ脚本コンビが、シャーリーズ・セロンを主演に迎え、いつまでも大人になれない身勝手なヒロインを描くコメディ・ドラマ。高校時代の栄光を引きずる自称作家の30代後半バツイチ女性が、久々に戻った故郷で容赦のない現実を突きつけられるさまを、ユーモラスかつ辛らつに綴る。共演はパトリック・ウィルソン、パットン・オズワルト。
ヤングアダルト小説のゴーストライターをしている37歳のバツイチ女性、メイビス・ゲイリー。都会でそれなりに華やかな一人暮らしをする彼女は、かつての光り輝いていた高校時代の気持ちを卒業できず、いつしか大きくなってしまった周囲とのギャップにも未だ無自覚なまま。そんなある日、高校時代の恋人バディから、赤ちゃんの誕生祝いパーティへの招待状が届く。それを見て衝動的に帰郷するメイビス。なんと彼女は、バディはいまでも運命の相手であり、再会すれば必ず自分のほうを向いてくれると信じていたのだった。