美術書の効用

雑誌にヴァン・ゴッホの特集が。

 

 

とても興味深かく読むことができました。ゴッホが圧倒的な名声を獲得出来たのは、彼が優秀な画家であったからではなく、彼が広い意味での「伝記」というメディアに最も乗りやすい画家だったからだそうなのです。

波瀾万丈なわずか37年の人生。推定850枚以上の油絵、800枚以上の水彩画を描きながら、生前にはたった1枚の絵しか売れなかった不遇の一生。牧師見習いでありながらの娼婦との同棲、耳切り事件、発狂、自殺など、黄金伝説に不可欠な劇的エピソードに事欠きません。さらに、膨大な数の手紙が残されていること。小説家であれ映像作家であれ、お馴染みの殉教者伝にエピソードをいくつかほうり込み、手紙の引用で適度に脚色するだけでファンゴッホ伝説が作られてしまうという訳です。物語構造に、向いているキャラだったというわけなんですね。人は物語に弱いんです。

 

 

セザンヌと比較すると、セザンヌはオリジナル作品を見ないとその良さがわかりにくいうえに、その生涯はドラマ性に乏しく、手紙も少なく、短くて、事務的だそうで、伝記メディアにあがりにくかった。

つまり、ゴッホの方が、誰にもわかりやすく、伝搬の速度も圧倒的に早かったことが、同時代の他の作家に比べてゴッホがアドバンテージ高く、人気を絶大に誇る要因な訳ですね。

さらに、印象派や浮世絵から影響を受け独自の活気的な技法を確立していくわけです。
通常の太陽光のもとで緑に見える木の葉も、夕日を浴びることで、違う色に見える。緑という固有色はあくまで白色光下での色にすぎません。 色の三原色(赤・青・黄色)は混ぜると黒になりますが、光の三原色は白になる。つまり、パレットの上で色を混ぜれば混ぜるほど色は濁り、暗く沈んでゆくので、色を混ぜずカンヴァス上に原色の細かいタッチを並べる技法で、明るく澄んだ色合を使う独自の技法を確立させていったんですね。

日本の浮世絵の平坦で鮮やかな色面表現と線描写は、当時の印象派の画家たちを魅了していましたが、ゴッホは特に夢中になったようです。浮世絵作家たちは、知的で、自然に没入して生きる自然人であると考え、南仏の地で彼自身の日本人像を膨らませ、哲学的に絵画に取り組んでいったようです。

 

そして、悲劇的な死。

 

こういった過去の芸術家の歴史、その苦心や苦悩を考えることは、デザインをするものにとって、すごく勉強になります。うちのスタッフにも、良いものをみて学んで欲しいので、芦屋のサロンに美術全集を置きました。見てすぐには結果は出ません。見たことが脳裏に残り、時間をかけて熟成され、後に形になる。芸術には時間がかかるんですね。

みんな、美術館に足を運ぶのが一番だけど、若い時にこそ、できるだけたくさんの良いものに触れて欲しい。

芸術の秋を目の前にして、歳とったせいでしょうか、あらためてそう感じる今日この頃なんです。

□■□ ANTENNE □■□

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