老舗の苦労

江戸時代(創業文政9年)から7代続く老舗の蒲鉾、
「かいや」の後継者であるK住君がカットにやってきてくださった。

 

 

その蒲鉾は、純粋に鱧(はも)だけをつかい、決まった水、きまった塩、受け継がれた技法で焼き杉の板に盛られ、焼きにかけられる。

 

平たく幅の広い、茶色の焦げ目のついた焼き蒲鉾である。
実際に食した方にはわかっていただけると思うのだが、甘く、滋味のあふれる味わい深い味なのだ。
昨今、スーパーなどで売られているゴムのような歯ごたえの焼き蒲鉾とは一線を画する。遠い昔の純粋で本物の食べ物の味を現在もしっかりと残しているのだ。6代目のお父様が、西宮のある寺の宮水を、ポリ容器片手にくみ上げに通っているエピソードからも、そのすごさが分かっていただけると思います。

機会がおありなら、ぜひ一度食される価値がありです。

K住くんといえば、貿易会社に勤めていたが、家を継いで結婚もされた。大学時代はスキー部で鳴らし、2年ほどカナダにスキー留学していたほど。先日の芦屋マラソンにも出場するほどのナイスガイ。最近はご長男を溺愛されている。

その彼が、悩んでいる。

人の問題だ。職人に準じる技能を必要とされるパートのおばさんたちが年齢とともにやめていき、新しい方を募集、育成に取り組んでいるそうだが続かないらしい。やはり、そういった伝統の技を愛し、伝承していきたいという志がなくては難しいと思う。そのような人とめぐり合うのは、砂浜で一粒の砂金を見つけるに等しいにちがいない。

伝統的な技の伝承においては、ますます先行きが危うい時代である。

K住君には、「お父さんに無形文化財か人間国宝でもなってもらいなさい」と勧めておいた。

いいと思うんだけど、どうやったらなれるんだろう?!

彼と話していて、甲陽園の老舗の料亭 播半(はりはん)も閉じて、かなりたつ。1万坪の庭園も、昔は天皇陛下もご滞在あそばされた建物もなくなってマンションが建ってしまった。播半へ、以前は蒲鉾を入れていたこともあるという。二人して遠い昔に思いをはせる。

古くて、味わいのあるすばらしいものが失われていくのは、ほんとうに寂しい。

◆名代 かいや 焼きとうし蒲鉾

 

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