映画「遠足」 鑑賞

少し前、シネマ部にて映画「遠足」を鑑賞しました。

 

 

感想をすぐに書くつもりでしたが、かなり濃い内容のために、なかなか書き出せませんでした。

その理由は、最後に・・。

 

 

 

 

 

 

日本人女性の監督、五十嵐久美子さんのドキュメンタリー作品です。

オーストリア、ウィーン郊外のグギング村の精神科病院の敷地内、”芸術家の家”と呼ばれる施設があります。こころに病をもちながらも、独創的な芸術才能を開花させた10人の画家の日常を追い、共同生活している映像をフィルムに収めたものです。

 

 

 

 

頭と胴体だけの人を描くチルトナーさん、エロティックな恋物語を描くコーレッツさん、母親の絵を壁や天井に書き続けるヴェラさん、空間恐怖症でとても緻密な絵を書き込むガルバーさんたちなど。

 

 

 

 

かれらは、施設のホームから出かけることを「遠足」と呼んでいるのです。一日に3枚だけ、当たったことのない宝くじを買いに出かけたり、恋人との年二回のデート、母の墓参りに行くなどで、外出するわけです。

フィルムは、ひとりひとりの日常をフォーカスして撮影されていきます。

 

元医師だったレオ・ナプラディル博士が、患者たちの描いた芸術的に優れた作品に注目したのがきっかけとなり、博士は熱心に指導を続け、’最初の展覧会で世界の注目を集めるようになったそうで、今では彼らの描く作品には高値が付き、アーティストたちは、自分の作品を売りつつ自活できるまでに・・。

 

そんなある日、チェコのプラハで行われる彼らの展覧会のため、代表の5人がクルマに乗って「長い遠足』出かけることになります。

 

現地、来場者の絵画の評判は、それぞれ様々ですが、彼らにはそんなことはどうでもよいこと。彼らの楽しみは観光だけ・・。滞在を終え、ホームに帰った彼らは、再び繰り返されるルーティンの中、幸福な創作活動を再開していきます(後半、テロップで、すでにこの世を去った画家たちの紹介が流れます)。

 

 

彼らの喜びが、どこにあるのか?インプットがほとんどなく、アウトプット(作品を描くだけ)するだけで本当に満足なのか?

鑑賞後の討論では、ほかにも様々な意見が噴出。どこまでの自由が保障され、どのように選出されているのか。個体差はあるだろうが、どこまでの管理(薬や医療)が行われ、この施設の管理は、国が行っているのか、それとも民間か・・。

 

出品・担当のT川さんのお話では、 ヨーロッパの水準からするとそれほど高級な施設でもなく、生活レベルも低い方だと。空間の広さは確保されているものの、確かに贅沢なものは皆無。食事も、個人の好みを尊重している程度で粗末な感じでした。

 

実は、シネマ部が始まる前、たまたま、自身の母親をお願いしている施設に行ってきたばかり。施設での実際の生活や、看護にあたられる方たちを目の当たりにしてきたばかりでしたので、考えさせられることばかり・・。

もちろん、自分自身の老後も含め、様々な思いが頭をよぎります。特殊な才能を持たない私が、痴呆になったらどんな生活になるだろうか・・・他人事では済まされませんね。幸せのあり方を、切実に考えさせられました。

 

人間は、自分自身が好きなことを、全うできること、ただそれだけで幸福なのか・・・。

 

 

今回、担当のともちゃん先生(T川さん)は、大学で教鞭をとられています。

ご専門は、表象文化。ご自身でも、パフォーマンスとしてコスプレを授業で披露されるなど、自己表現方法についてはご専門の女性。

 

貴重な作品を、ありがとうございました。

 

 

◆「遠足 Der Ausflug」(ドキュメンタリー・ジャパン)

86分/カラー/ドル美^/4:3LB
日:デジタルメディアエンタテイメント&ドキュメンタリー・ジャパン
製作年:1999
監督:五十嵐久美子
撮影:山崎裕
音楽:近藤等則
出演:アウグスト・バッラ/オスバルト・チルトナーほか